2020年1月1日付 さくら新聞掲載
月曜の朝9時、と聞いてイメージすることは何だろうか。私の場合、仕事を辞めて放浪中のメキシコのダンススクールで、スペイン語でのジャズダンスクラスが始まろうとする朝のことだ。30代半ばにして初めて習うジャズだったが、スペイン語もまだ習いかけで、さらにフランス語のダンス用語も出てくるため、新しい言語を3つ同時に覚えるような緊張感と、やりたかったダンスを月曜の朝からティーンエイジャーのクラスメイト達と一緒にできる、とんでもない幸福感に満たされていた。旅の終わりは見えていて、尊敬する大好きな先生が教えてくれるこの幸せな時間が永遠に続くわけではないことは明らか。だから限りなく貴重で、人生で過ごした無数の月曜朝9時の中でも最高の時間だった。何曜日だろうとどこにいようと、私に与えられた人生の時間をどう使うかは全ての瞬間において、100%自分の自由意思と選択によるものなのだ。
だが、メキシコまで行かなくても、月曜朝9時に街を散歩してみると、意外とカフェでゆっくり犬と一緒に友人と話しこんだり、コワーキングオフィスで乳母車を横に置いて仕事をしている同年代の男性を見かける。アメリカでは、ギグエコノミー が拡大しつつあり、労働人口の35%(5,700万人)が何らかの形でフリーランスとして働いた経験を持ち、2014年から400万人増加している。「ギグエコノミー 」については近年様々な分析が出ており、ギグをどう定義するかによって数値にバラツキがある。ざっくり定義すると、いわゆるフルタイムではなく、インターネットのアプリなどを駆使しつつ、契約ベースで単発の仕事をすることを指し、必要に迫られた副業の場合もあれば、プラスアルファで稼ぎたい人もいるし、1割強と言われているがそれのみを収入源として自活できている人もいる。
何れにせよ、Upworkによれば、そうした仕事の仕方を短期的な手段と捉える人に比べて、より長期的なものと考える人は2014年から倍増している。仕事内容は、いわゆる部屋貸し(AirBnBなど)や配車(Uberなど)や土木業も含まれるが、金融、教育、ヘルス、ビジネスサービスなど専門性が問われるものも半数近くを占める(米労働統計局、2017年)。また米国の場合、年齢層もZ世代やミレニアル世代などより若い世代の方がこの形態の仕事を選ぶ傾向にあり、GDPの5%に当たる1兆ドルをこうしたフリーランス業が叩き出している。そうしたフリーランサーを支えるコワーキングスペースは、2015年から4年で2.3倍以上増加しており、こうした労働に携わる人口は2020年には労働人口の4割を超えるとも言われている。
実際のところ、こうしたフリーランサーは週に45-60時間と意外と長時間労働していたりする。だがその76%はフルタイムの仕事に切り替えたいとは思っておらず、自分で働く時間や場所、ひいてはクライアントを選べる自由さなどを理由に、フルタイムよりも仕事に対する満足度が高い傾向にある(PYMNTS)。
さらに、このような労働形態は不安定であるという見方が一般的だが、金銭面での満足度スコアでは、フルタイムとフリーランサーではほぼ数値は変わらないという結果もある。その理由の1つとしては、日本と違って労働市場の流動性の激しいアメリカでは、仕事人生で転職やリストラが数回あることは織り込み済みだが、フルタイムの場合はクビになってしまえば収入はある日突然ゼロになってしまう。だがフリーランスの場合、クライアントは複数いるため、その心配は実は少ないということが挙げられる。
もちろん、アメリカの場合は高額の医療保険を自前で調達しなければならない点も含め、福利厚生がないことなど、フリーランス業が楽なわけではなく、リスクを取ることを恐れず、自律的な人の方が向いており、万人向きではない。だが、技術革新によって、そういう生き方・働き方を選べる職種は増えており、やり方次第で可能性は広がっている。改めて、働くということ、生きている間の時間をどう配分したいかということについて、2020年の幕開けを機に考えてみるのも良いかもしれない。
さくら新聞より再掲