花とその向こうの笑顔

1月 1, 2019

2019年1月1日付 さくら新聞掲載

その昔、アメリカの大学院に行く理由として「安全保障を勉強したい」と母に説明したところ、「どうしてお花やお茶を習わないのか」と返され、そのトンチンカンなコメントにクラクラしたことがある。まったく比べ物にならないではないか。それでも祖母はお茶とお花の先生であり、元旦には母の活けた花を見て育ったためか、その時は「安全保障と全く関係ない」と一蹴したものの、いつかは自分も花の活け方を習うだろうと思っていた。

思考は現実化する。それから随分経ったが昨年、ついにお花を始めることができた。DC(日米協会)、タコマパーク、それにポトマックで月1回、尾形草沙先生という方が草月流の生け花を教えている。 先生の手にかかると、パチンパチンと切ってしまった枝から想像していなかった線が現れ、立体が生まれていき、モッサリと立っていた私の花達が生き生きと踊り出すようだ。立体による表現は、 普段とは違う次元のチャレンジで、思いの外楽しい。それに花に触れている間、とてもクリエイティブで優しい気持ちになる。

でも優しい気持ちになれるのは、花だけが理由ではないかもしれない。実は、この華道教室はファンドレイジングイベントでもあり、このお月謝代は花代などを除いてすべて、先生のお嬢さんである尾形道子さんが切り盛りする 、Let Me Shine Guatemala(LMS、http://www.lmsguate.org/)というNGOの活動費になっている。

LMSは、グアテマラの子供達にサッカー教室と読み書きを教える、コミュニティセンターである。活動開始から10年、NGO登録して4年が経ち、現在50人の子供達が参加し、3名の現地スタッフに支えられている。お月謝代は、こうしたスタッフや施設代、月1回の食費など、活動を支えるあらゆる資金源になっているという。

グアテマラといってもピンとこない方もいるかもしれないが、テキサスからメキシコを南下した先、南米と北米をつなぐ細い釣り針のような地域の初っ端が、グアテマラだ。DCにもグアテマラから来た人たちがたくさんいる。旅してみると、コーヒーが香り、色とりどりの織物と野菜やフルーツが輝く国だが、やはり、経済大国のような洒落た物質に溢れ、それなりに誰もが小綺麗な服を着るような生活ぶりからは程遠い。人口の6割、先住民の8割が貧困である。彼らの中には、妹の靴代を捻出するために高校卒業を諦め、家族に仕送りをするために死の砂漠を越えてDCに働きに来た、という人もいる。大学などもっての外、たくさんの高卒くらいの男の子が、コーヒー農場で働いている。

創設者の道子さんは、二児の母にして、プリンス・ジョージ郡で教えるESLの先生だ。ESLの生徒を通じて彼らの母国の社会問題を知り、10年ほど前に各国を自分の目で見て回ったそうだ。グアテマラでは家庭内暴力の被害者を支援する団体で自身もボランティアをし、路上でサッカーをしていた少年達との出会いをきっかけに、彼らを支援するべく昼間のESLクラスに加えて夜間クラスも教え始め、自力でNGOを立ち上げた。行動力のある女性だ。

「日本で生まれてアメリカに住んでいると見えないものがたくさんある。見て見ぬふりはできなかった」と道子さん。だがグアテマラに比べたら大金持ちが住むDC近郊でも意外と資金集めは難しい。そこでお母様である華道家歴30年の尾形先生が毎月、華道を通したファンドレイジングイベントを開き、NGOの活動資金の捻出に協力しているのだそう。「まずは一度体験してみて、続けたければ続ければ良いと思います。」上品さを湛えてそう仰る尾形先生も、定年後にアメリカに移住したのちに華道教室を開く、これまたすごい行動派の女性だ。

日本と違い、アメリカでは枝物や季節の花を集めるのが難しいとのこと。12月は銀に塗られた枝に、紫のカーネーション、女郎花だったが、1月はどんな花が課題になるのか、楽しみだ。花の活け方を学ぶだけでも十分嬉しいが、それがグアテマラの子供達のご飯になり、初めて履く靴になり、笑顔になるなら、嬉しさ以上に、心が温かくなる気がする。

一年の計は元旦にあり。そろそろ飽きるくらい、毎年考える新年の抱負。そうだ、今年は、自分のための目標と一緒に、誰かのために何かすることも、ひとつ目標に入れてみよう。

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