2019年5月4日付 さくら新聞掲載
時は薫風の候。日本では新学期が始まったばかりでやっとクラスメートにも慣れた頃だが、アメリカでは6月後半からは早々に長い3か月の夏休みが始まる。さて何をして遊ぶか。
私見ではあるが、アメリカでは日本人が期待するような安くて美味しいご飯や温泉はないし(ここはアメリカなので当たり前だが)、DCときたら、おしゃれなショッピングができるところも限られている。だがアウトドアが楽しいこの季節こそ、日本とはけた違いの規模のアメリカの大自然をさほどお金をかけずに大いに満喫できる季節。アメリカ生活の本領発揮である。
遠出するなら、ラスベガスからグランドキャニオン周辺の国立公園群をぐるっと1週間から10日かけて車で回るのも良いし、アメリカ大陸を横断する人もいる。モニュメントバレーなどでは、圧倒的で荒々しい大自然とともに、いわゆるインテリ層が秩序だって住んでいるDCとは違ったアメリカの顔が見られるはずだ。
海なら世界有数のスキューバダイビングスポットがあるカリブ海が3時間ほど南下すればすぐ。ダイビングの資格は、週末2回半でプール実習までのコースを300ドル以下程度で取れるし、例えばサメとダイビングできるバハマなら直行便が400ドル前後で出ているので、ダイビングを始めてみるのもおすすめだ。運が良ければ、漆黒の夜の海の底で貝虫類が真珠の首飾りのように降ってくるのを見たり、サメの歯を拾ったりできるかもしれない。
もちろん近場でだって、いくらでも楽しめる。王道はシェナンドア近郊のキャンプとハイキング。もちろん夕方はみんなでBBQだ。お肉の焼き方は男性の腕の見せどころ。運転手が頑張れるなら、ウェストバージニアまで行くとラフティングなどもできる。キャンプサイトは、実は春先にはシーズン中の主要な3連休の予約が埋まってしまうくらい、アメリカ人の主要な遊びの一つでもある。
また5月下旬から6月は、意外と知られていない、カブトガニの恋する季節である。メリーランド(MD)州のチェサピーク湾あたりまで2時間ちょっと車を走らせると、カブトガニ達が、満月の真夜中に続々と岸辺に集まり、一気にスピードデイティングするのを目の前で見ることができる。大抵は一匹のメスに大量のオスが群がっていて、鎧の山がそこここにできている。用事が済めば、暗い海の中にソロリソロリと戻っていき、波と一緒にゆらゆらと消えていく。そのすべてが何の音もたてずに淡々と進められていく様子は、三億五千年前から連綿と続く荘厳な儀式のようだ。ちなみに同じくMD州のアサティーグでは、野生の馬や渡り鳥の群れも見ることもできる。
さらに日本人にとって嬉しいことは、DC近郊では釣りができるところがたくさんあり、アジア系スーパーで売っているような魚も自分で釣って食べられるということである。比較的水のきれいなチェサピーク湾南部やMD州の内陸部の貯水池で釣れるのはマス、ヒラメ、クローカー、パーチ、イエローパーチ、ナマズ、ストライプバス、ウォールアイ、ブルークラブなど。MD州ではマスは3月半ばから5月下旬にかけて放流される。
釣ってきたばかりの魚の新鮮さたるや、スーパーでおろされた魚を買う気が失せるほど。そして鎧のように硬い鱗がまだキラキラと虹色に光る魚たちの本来の姿がどれだけ美しいかを知り、それを焼いたり揚げたり三枚おろしにしたりしながら、命に感謝して頂くのはちょっとした貴重な経験である。ちなみに、既にDCでの釣りの楽しみを発見した日本人がいらしたようで、商工会が出版している『フライフィッシング入門(ワシントンDC日本商工会会報 号外〜Vol.13〜)』には非常に詳しく、フライフィッシングの手法やDC近郊の釣り場などを紹介しているので、ビギナーにはおすすめである。
これ以外にも、春にはいちご、夏の終わりにはリンゴや桃などの季節の果実をもぎに行ったり、DCらしくいくつもある各国・各地域の大使館イベントに行ったり、毎週金曜日に国立彫刻庭園で演奏しているジャズ(無料)を聞きながら噴水で足を冷やしたり。また今年も冬将軍がやってくるまでの間、アメリカの夏の週末の楽しみは尽きない。
さくら新聞より再掲
首都から1時間〜1時間半ほど車を飛ばせば、釣りができるような貯水湖や水辺はたくさんある。