時間にまつわるあれこれ

11月 3, 2018

2018年11月3日付 さくら新聞掲載

突然だが、皆さんは、何分遅れなら、遅れてくる友人を許せるだろうか? そもそも何分遅刻したら「遅刻」だろうか。

かくいう私は、昔から「時間通り」に到着することは苦手なことの一つ 。むしろ時間に間に合いそうになるとどうも居心地が悪く感じる(そういう病気があればぜひそのように診断してもらって、医師の診断書として使いたいくらいだ)。もちろんビジネスではなく、パーソナルな関係の場合の話である。

しかしこんなことを書くと、同胞から鋭い批判の声が聞こえてきそうだ。先日の日本人が集まる誕生日会でも、私はたまたま30分前に到着したが、参加者の半数以上がレストランの予約時間の15分前に集まっていて、そのシリアスさに軽いショックを受けた。別の会では、3分遅れで到着したところ、既にほぼ全員が集まっていて、珍しく間に合ったと思っていた私の「勝ち組感」は見事に崩され、ガッカリしてしまった。「時間厳守」は日本人のアイデンティティの一つなのではないかと思うくらい、日本人は時間に厳しい。文字通りに時計の針を指標に、遅刻は日本社会における、聖書の十戒並みの位置付けにあると言っても過言ではないと思う。汝、遅れるなかれ。

だが、 世界を見渡してみれば、時計の針の動きを絶対値としてではなく、目安と考える国も少なくはない。例えば、中南米の雄、メキシコでは、「30分遅れ」は「時間通り」と文字通り同義語である。こんな話だってある。我が愛すべきメキシコ人の友人の妹がドイツ人と結婚したため、親戚一同ドイツに行き、電車で移動することになった。電車は、6時57分発。友曰く、「それで7時きっかりには到着したのに、20分待っても電車がこないんだ。意外とドイツもダメだ」。これには大笑いしたが、これくらい時間に対する感覚が違う人たちがいるということでもある。 なお、メキシコはラテンアメリカの国の中では時間に厳しい方である。

気になって調べてみると、サウジアラビアでも30分遅れはよくあることで、ナイジェリアでは1時と行った場合、1時から2時の間を指すそうだ。インドでは、時間厳守は美徳の一つとは考えられておらず、定刻通りの行動は、感謝はされるかもしれないが、相手も同じようにしてくれるとは限らない、らしい。なるほど、色々と思い当たる節がある。

いずれにせよ、パーソナルなレベルで、分刻みでの時間厳守を是とする国は世界の多数派ではないと思われる。これは集団行動を重視するか、自分のペースを重視するかという、生き方の違いが根幹にあるだけで、みんなが同じ主義であれば、どちらでも問題はない。みんなが「定刻」を目安としているだけならば、元から誰もいわゆる定刻通りの行動を期待しないだけだし、ゆったりと生きていける。

だが異なる主義の人間を取りまとめるとなると、話は違ってくる。先日主催したサプライズの誕生日会には、アメリカ暮らしが長い日本人数人、ベトナム人、インド人、フィリピン人、そのハーフ、アメリカ育ちのペルー人、プエルトリコ系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人、ロシア人、ヨーロッパ系アメリカ人の老若男女が集まった。DCらしく文化的背景において多様性に富んだグループでとても楽しい時間を過ごせたが、案の定、サプライズで足並みを揃えることが重要、という事前の連絡にも関わらず、レストランの予約時間にいたのは2名のみ。ある程度揃ったのは20分過ぎ、それどころか1時間後に到着した友人までいた。

ヤキモキしないためには、実際の予約時間を伝えずに、30分前に集合するようにと言っておくべきだったのだ。文化的に多様なグループを取りまとめる場合には、時間厳守と集団行動を重視する日本人を組織するのと違い、かなりの柔軟さと寛容さ、コミュニケーション力、臨機応変なマネジメント力が要求される。この一件では、ゆとり重視派の私も、少しだけ時間厳守の精神が恋しくなってしまった。だがこれは無い物ねだり。せっかく国際色豊かなDCにいるのだから、様々な考え方の人とやっていくマネジメント力を学ぶ機会と心得て、修行に勤しむ毎日である。

さくら新聞より再掲

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